大坂に生まれる。19歳で南画家の日根対山に入門して小蘋と号した。滋賀県の酒造業野口家に嫁ぎ、一時期、営業所のある甲府に滞在した。後に一家で上京してから各種展覧会へ出品、受賞を重ね、1904(明治37)年、女性で初の帝室技芸員に任命された。大正天皇の即位式御大典には献上屏風の揮毫を命ぜられた。
本作品は、朱色の文机の上に和綴本が積み重ねられていることから、本を読み終えて立ち上がった女性を描いている。団扇は手や着物が透けて見える水団扇、着物は襦袢が透ける笹模様の縦絽と涼しさを醸し出している。頬をほんのりと赤く染めた細面の顔立ちは、あたかもモデルがいるかのような個性的表情で、自画像を推測する向きもあるが特定には至っていない。
後年は、鮮やかな青緑山水画や気品のある花鳥画を良くした小蘋だが、壮年期に於いて、美人画に並々ならぬ技量を発揮したことを首肯させる代表作である。