5 動物 身近なものへの眼差し
ノルマンディー地方は牧畜でも知られています。 1880年代以降、この地に広がる豊かな牧草地で飼育される牛の群れを繰り返し描きました。

《水飲み場の牛の群れ》1880年 油彩・カンヴァス
ランス美術館(inv. 907.19.33)
C. DEVLEESCHAUWER©
「印象派の先駆者」と呼ばれるウジェーヌ・ブーダン(1824-1898)をご紹介する、日本では約30年ぶりとなる展覧会です。故郷ノルマンディーをはじめ各地を旅し、空や雲、海、牛の群れや浜辺に集う人々などを、瑞々しい色彩と軽快な筆致で描き出したその作品は、大気や光の様子を鋭敏な感覚でとらえています。戸外制作を重視し、常に変化する自然の「瞬間」を表現しようとする姿勢は、印象派の巨匠となる若きクロード・モネ(1840-1926)に大きな影響を与えました。本展では、油彩、素描、パステルなど約100点で、フランス風景画の発展に寄与したブーダンの魅力を新たな視点で問い直します。
1.「空の王者」と呼ばれたブーダン、自然の「瞬間」の表現
ブーダンは、常に変化を続ける故郷のノルマンディー地方の空を鋭敏な感覚で描き続け、コローやボードレールから「空の王者」と呼ばれました。また、海景画も当時から高い人気を誇り、帆船の浮かぶ海や各地の港の情景はブーダン作品の代名詞とも言えます。
光や大気、水などの不定形のものにとどまらず、変化する自然の諸相の「瞬間」をどう捉えたのか、ブーダンの探求をご紹介します。
2.8つの切り口でブーダン作品を紹介
本展では、ブーダンの作品を年代ごとに展示するのではなく、「海景」「空」「風景」「建築」「動物」「人物」「素描」「版画」の8つの切り口でご紹介します。ブーダンが関心を寄せ、描いたこれらの作品からは、従来の海景画のイメージだけにとどまらない、ブーダンの画業の多面的な魅力を感じることができるでしょう。また、先輩であるバルビゾン派の画家たちや、ブーダンを師と呼んだモネとの関係もご紹介します。
3.「瞬間」の美学の結晶 習作や素描の意味
ブーダンは、絵画において最も重要なのは素描であると考え、膨大な数の素描のほか、油彩やパステルなどによる習作を残しました。これらは完成作のための下絵ではなく、彼が戸外で目にした自然の「瞬間」を素早く記録したものであり、観察の記憶を引き出す重要な装置でした。これらの素早い筆致で描かれた自然の諸相は、あたかも抽象絵画のようですらあります。近代風景画の成立を担ったブーダン。その革新性が詰まった素描にもぜひご注目ください。
ノルマンディーの港町に生まれ育ったブーダン。画業の初期には海の絵は主軸ではありませんでしたが、1860年代後半から多くの海景画の注文に応えるようになります。ブーダンは各地の港町を訪れましたが、トルーヴィル、ディエップ、フェカンなど自然の要素の残る中規模の港を好んだようです。


詩人シャルル・ボードレールはブーダンの空の習作に注目し、コローは「空の王者」、クールベは「熾天使」と呼んでブーダンの空の表現を称賛しました。とらえがたい雲や光の動きを観察したブーダンの「瞬間」への探求は、故郷の海沿いの変わりやすい空を相手に展開されたのです。


19世紀、バルビゾン派の画家たちを中心に自然主義的な風景画が隆盛をみますが、彼らはノルマンディー地方もよく訪れており、ブーダンは彼らから風景画を学びました。農民や荷車が行き交う道や、水辺の景色を対岸の建物や橋とともに描く構図には、バルビゾン派からの学びの成果といえます。


ブーダンは木造や石造りの建築物も描いています。妻との結婚を機に繰り返し訪れたブルターニュや、オランダ、ヴェネツィアで、その土地の建物を作品にしました。不定形の雲や光の描写を得意とし、自分では堅固な対象を描くことは困難と言いつつも、自然の中の建築物を生涯描き続けました。


ノルマンディー地方は牧畜でも知られています。 1880年代以降、この地に広がる豊かな牧草地で飼育される牛の群れを繰り返し描きました。

ブーダンは、自然の中の人物像を描くことに関心を持っており、浜辺の海水浴客や漁師、川辺で洗濯をする女性などをたびたび描きました。

ブーダンにとって素描は対象の本質を理解するための手段でした。「樹々、空、船、海」と「人物研究」という2つのテーマで約40点を展示します。

ブーダン自ら制作した版画は2点のリトグラフと1点のエッチングが知られるのみです。しかし版画のもととなる素描をしばしば提供しました。それらのリトグラフやエッチング10点をご紹介します。
